ヒューマン・ドラマ

博士と狂人

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【概略】
貧しい家庭に生まれ、学士号を持たない異端の学者マレー。エリートでありながら、精神を病んだアメリカ人の元軍医で殺人犯のマイナー。2人の天才は、辞典作りという壮大なロマンを共有し、固い絆で結ばれていく。しかし、犯罪者が大英帝国の威信をかけた辞典作りに協力していることが明るみとなり、時の内務大臣ウィンストン・チャーチルや王室をも巻き込んだ事態へと発展してしまう。
製作年:2019年
製作国:イギリス/アイルランド/フランス/アイスランド
収録時間:124分
ジャンル:ヒューマン・ドラマ
日本語吹替:あり

.5★★★★☆
初版の発行まで70年を費やし、世界最高峰と称される「オックスフォード英語大辞典」の誕生秘話を、メル・ギブソンとショーン・ペンの初共演で映画化。
映画全体を漂う何とも言えない重厚で迫力ある雰囲気、これ絶対役者力だろうねえ。
メルギブ演じる学士号をもたない貧しい学者マレーの言語知識が凄まじく、そりゃ他の権威ある学者たちも驚くわなと。
ショーン・ペン演じるマイナーは、精神を病んだエリートの元軍医の殺人犯。
この二人の道がどういう形で交わるのか、気になりましたよね。それは「本」だった。本に挟まっていた、英語辞典のための引用を送って欲しいという声明文。
たくさんの引用文を送ったマイナーと顔を合わせるマレー、この二人は「言葉」で通じ合え、すぐに友情を育む。
看守の命を助けた事で、結構待遇よく過ごせているマイナー。看守のマンシー(良い人)によく頼みごとをしてたり(笑)
院長もマイナーが誤殺してしまった相手の寡婦との交流が、彼の精神(病)に良い変化をもたらしていると認識してた。
自分の全財産を与えた寡婦イライザに何度か面会し、字が読めない彼女に字を教えることで間接的に彼女の子供たちも字が読めるようになり、自由になれるとマイナーは言ってたが、次第に二人の交流は、赦しだけではなく加害者と被害者の妻の枠をも超えてしまうのだった。
被害者の妻を盗んだと、混乱し病状が悪化した彼は、自分で性器を切り、医務官を呼んだ。
辞書編纂の仕事だけでも大変なのに、学閥とかも関係してきてマレーも大変だし、それ以上にマイナーには精神治療がはじまって魂が抜け出たような深刻な状況に陥った。
「私は赦したのに、どうして彼を罰するの」イライザはそういった。マレーの妻は彼女に会いに行ってその瞳に赦しと愛が見えたなら、彼を助けて、と言う。
もてるすべての力でマイナーを救うために、チャーチルに会いに行って、事態が好転するところは良かった。一人の人生や偉業ではなくたくさんの人に支えられてきたのだと。
マレーは再び編纂責任者となり、マイナーはあの治療院ではなくアメリカへ送還されることに。
ラストの実際のマイナーの写真を見ると、凛とした気高い人物であったのだと想像できた。マレーも、自分が常日頃持ち歩いているという勤勉であれという羊皮紙の文面通り、生真面目そうな人だった。
途中まで、あの院長も本気でマイナーを病から治そうとしていたと思えたのに、どうしてこうなったんだろ…。愛を奪ったと、贖罪の気持ちで苦しんでいたマイナーが、院長との「同意」のもとにやった治療の数々は、到底現代の治療ではないのだろうとも思えた。
言葉は生きているって台詞が印象に残った。次から次と新しい言葉が生まれているのだと。現代だってそうだもんね。
編纂をはじめてから初版が出るまで70年かかったってのも、一体どれだけの「言葉」があの辞典に綴られてたのか、推しはかれる要素に。
とても見ごたえがありました。
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ジャンル: 映画
テーマ: 映画感想
( 最終更新日: 2021/10/31 Sun )
  • コメント: 2
  • トラックバック: 1
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コメント

  • latifa
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タイトルなし

makiさん、ご覧になったんですねー。
そうそう、重厚感有り、役者もさすがだったし、内容も色々考えさせられるという、ずっしり来る映画でした。

カットしちゃう処は、どうしてなの?って私は良く解らなかったのですが、makiさんの記事読んだら、すっと入って来ましたよ。

彼のその後が辛くてね・・・。

Re: latifaさん

こちらにもありがとうございます。
これは久々に、「良かった…」と重厚感あり気分での満足が出来る作品でした。
途方に暮れたようなメルギブも好きでしたが、
ショーン・ペンがとにかく格好よくってねえ…。
あの、焼き印の襲撃者の話さえしなければ、いたってまとも…でしたよね。
誤殺での被害者妻との交流はたどたどしくも、
後悔と贖罪の気持ちでいっぱいだったでしょうから
(そう思ってないとあんな表情や財産の譲渡はできないし)
彼の妻の心を奪ってしまったという感情は、彼にとっては一番のタブーだったのではないかと、私は思いました。
そしてそれを否認できない自分の存在が、一番汚らしく感じ、あの行為に及んだのではと。

あの写真(本物ですよね?)だけでも、知性が宿っているのを感じられる瞳をしてらして、ほんと、その後の人生が…。

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