
【概略】
諦めと、そして諦められない何か…。それを身体の奥底に抱えてしまった時、ひとりの人間が見つめるのはいったい何か。人間の内面に徹底的に迫った胸を抉る人間ドラマの傑作。
製作年:2007年
製作国:ロシア
収録時間:157分
ジャンル:ヒューマン・ドラマ
日本語吹替:なし
.0★★★☆☆
ロシアの質素な田舎の風景映像はとても美しいのに、ヴェラとアレックスの男女のすれ違いが俗物的な話であるギャップが良い。
ただ…「赤ちゃんが出来た。あなたの子じゃない」…じゃあ誰の子だ?ってなるよね当然。
でもアレックスは「奴が好きなのか」とは聞くけど、相手は誰だと聞かない。でも息子の「パパが留守の時、ロベルトおじさんが家にいたんだ」で動揺し、ロベルトが妻の相手なのか?と考えてるのが表情に出てる。
夫婦で話し合おうとするも、相手の事を言おうとしたヴェラを遮って「やめろ。聞きたくない」とアレックス。そして更に「どうするつもりだ?堕ろすのか?」と聞く。
家族の事を考えろと言い、常に威圧的ではないけど、若干高圧的な態度もあるアレックス。
でもアレックスも「朝食の支度を頼むよ、出かけよう。いい親になろう」とも言うんだけど…なんか空気が凄く重いんだよー;
ヴェラも、アレックスが「堕ろそう。すべて忘れる」で、本当にそれでよいの?ってくらい他人事な返事なのよね。
アレックスの兄弟マルクがちょい悪な感じで(冒頭で銃弾受けてましたし)、堕胎医師もすぐ見つけてくる。
アレックスも悪い男では決してない。ヴェラを愛しているし、寝ている妻に話しかけ「非は認める。後悔したくない。助けてくれ」と懇願したりもする。
ただ、闇医者に頼んだせいか、ヴェラは寝てると思ったら昏睡状態になってて、正規の町医者にみてもらうと、「死んでる」と言われてしまう。
こんなん、泣き叫ぶわ…。自分のエゴのせいで健康体だった妻を「殺して」しまったのだよ。後悔しかないよ。
でも、あとで疑惑が。実はヴェラは自分でアヘンを大量に飲んだのではないか…と。
全体的にものっそ静かな作品なのですが、その心境は全然静かではなかった。
ヴェラは前にも未遂がありロベルトが助けたのだ。
なぜ自死をしようとしたのかというと、アレックスの子を妊娠していた。でも、彼にどう話していいのかわからなかったのだ。
要は昔のような会話がなく、アレックスは自分だけのために家族を愛しているのだと、ヴェラは思っていた。
深い深い孤独。一緒にいるようで、孤独に陥る夫婦は珍しくはない。いっそのこと、アレックスと喧嘩するくらいの度胸があればよかったのかもしれなかった。
相互理解をする事を、ヴェラは諦めてしまった。そして、諦めきれなかった。家族という囲いの中で、ただ一人、異質なものになってしまったのだった。
お互いを思いあう事、それが欠けてることに気づいてしまったヴェラの視点でしか話がわからないので、アレックスが真相を知った後、どういう風に感じたのかはわかりませんが、なるほど、「ヴェラの祈り」というタイトルは本作にあっていたかもしれません。
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