
【概略】
老婆首吊り事件の捜査をしていた精神医学者フレイルは、3年前に失踪した息子について老婆が執拗に調べていたこと、周囲で老人の不可解な死が次々と発生していたこと、死んだ老人たちには秘められた忌まわしき過去があったことを知る。彼が働く病院の向かいには島があり、ある夫婦と未亡人がそこで古い家を改装してホテル開業の準備をしていたが、ある日、“何か”が彼らを襲うのだった…。
ホラー
.5★★★☆☆
すぎるほど丁寧な演出が、一方で難解と感じさせられるが、むしろそこには悪に堕ちる魂たちの悲しき心情が細やかに映されているように感じた。
よくあるホラー映画の「霊だから怖いでしょ」という勢いだけの恐怖演出ではなく、なぜ、どうして、の部分がきちんと描かれています。様々な出来事が最終的に一つに集約され明かされていく演出は好きだし、このような理屈ありきのホラー映画も、新鮮で面白いと思う。
ストーリーとしては、「老人の変死事件」と「怪奇現象に見舞われる離島の三人」の2つの話が同時進行で進む中、変死事件の検視に立ち会っている精神科医の過去(子供が失踪している)が複雑に絡み、灰色の薄暗い北欧の地でさ迷う魂と不可解な事件の謎が次第に紐解かれていくという展開。
なかなか手の込んだ作りで好感。単純な恐怖を与える映画にはなっていなくて、絡み合う心情や人間ドラマ部分を中心にもってきている。そういう意味では、ホラーの恐怖演出で観客を怖がらせるのは重視していなくて、根深い事件に端を発する陰惨で静かな北欧ミステリー的作品。とはいえ、ホラーを放棄しているわけではなくて、怪奇現象に起因する事件をミステリーとして扱っているという感じかな。
ミステリーとホラーが上手く融合されており、ミステリー調だった話が、ラストでは一気にホラーとなり観客を闇に引きずり込む演出は、巧み。
あと、北欧系サスペンスの醍醐味(暗くて重い、冷たく湿った雰囲気)が非常に良く出てた!好き!
サブタイトルに呪いの十字架とつくので悪魔憑き系の話かと思えば、全然違うしっかりと作り上げられた良作だった。
とはいえ変なところもあるけどね。唐突に現れる霊と交信する弁護士とか。結局、老人たちに十字架傷を負わせてたのは何だったのかとか…(ここ、明かされてない。呪いか?)
息子が行方不明になった精神科医師フレイル。死産を乗り越え再起を図ろうとするカトリーン。この二人の話がやがて一本に繋がるのですが、その2つの物語を結ぶキーパーソンが1956年に行方不明となった一人の少年ベルノーデュス。
弁護士が言うところの「究明」がされなければ霊が堕ちてしまうならば、ベルノーデュスの魂こそ悪霊のはずだけど、本作ではこの少年の魂が、精神科医の息子の行方を指す事に。「まるで導かれているように」。
それにしても、フレイルは最後、なぜ地下室を閉じたのか…。もし地下室に入っていれば、ベルノーデュスとカトリーンの二人の遺体をみつけられたはず…。
死後ずっと誰にも見つからない死者の無念すら演出に組み込まれて、誰の魂も救われず、ただ哀しみが積もっていくような、北欧アイスランドの寒々しさと寂しさが際立つ。
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